人一倍はなぜ人二倍といわないの?『チコちゃんに叱られる!』

2020/6/5放送『チコちゃんに叱られる!』
夏菜さん、大竹まことさんをゲストに迎えています。

チコちゃん「人一倍はなぜ人二倍といわないの?」

昔は「一倍」が「二倍」だったから

詳しく教えてくださるのは、辞書編集一筋40年 日本国語大辞典の元編集長 神永暁さんです。

明治以前は「×2」を「一倍」と表現していた

「一倍」というのは明治初期ごろまでは「×2」つまり「二倍」の意味でした。
私達は普通「リンゴ1個の一倍」というと「リンゴ1個」と考えがちですが、実は 明治初期までは「一倍」というと「りんご2個」を表現していたのです。

平安時代の説話集『今昔物語集』にとてもわかりやすい例が書かれています。
『今昔物語集 巻第十四』に書かれた説話。

この貴重な資料をひもといてみると、お坊さんが金貸しとなって自分の婿にお金を貸すという物語です。
この一部に「一年を経(ふ)るところに借れる前の銭一倍しす」と書いてあります。
「1年経って借りたお金が2倍になる」という高利貸しですが、「二倍になる」の部分を「一倍」という言葉で表現しています。

つまり「一倍」とは今でいう2倍なので、「人一倍頑張った」というのは「他人に比べて2倍頑張った」ということになります。

「倍」の他に「層倍」もあった

さらに、明治時代以前には「倍」の他に「層倍」という表現もありました。

「×1」=層倍
「×2」=一倍 もしくは 二層倍
「×3」=二倍 もしくは 三層倍
「×4」=三倍 もしくは 四層倍

西洋文化が入ってきて「×2」の表現を「二倍」に変えた

ところが、明治時代に西洋文化が日本に入ってきて「×2」が二倍になるということになりました。
つまり、明治時代以前は日本では「一倍」は「×2」のことでしたが、明治以降は「二倍」という言葉で「×2」を表現するように変わったのです。

当時の人たちもきっと混乱したはずです。
そこで明治8年に公布された『太政官布告』で「一倍」と表記していた「×2」のことを全て「二倍」と表記することに決定しました。

今まで使っていた「一倍」という表記は禁止されましたが、「人一倍」という言葉はそのまま使われ続けたようです。

西洋文化の導入によって変化した言葉「四六時中」

人一倍はそのまま使われ続けましたが、西洋文化の導入によって変化した言葉もありました。
一日中という意味をする「四六時中」はもともと「二六時中」でした。

江戸時代は子の刻、馬の刻など1日を12分割で表していました。
昼の6つと夜の6つを合わせて丸一日を2×6で「二六時中」とシャレを使って表現しました。

しかし、明治6年に24時間制が導入されると1日を24時間に分けました。
そこで12を24にするため2×6から4×6に変えて「四六時中」という言葉が生まれたといわれています。

西洋文化の思想に沿った概念を表現する日本語を作り出した

このように、明治になると西洋の思想が次々と取り入れられて日本語に様々な影響を与えました。
つまり、西洋の思想にはそれまで日本になかった概念が存在するため、その概念を表現する日本語を新たに作り出す必要があったのです。

例えば、英語の「Speech」という言葉。
意味は議会や民衆などの前で自らの主張を述べること。

ところが、当時の日本では自分の意見を主張するためには紙に書いて文書で伝えるのが一般的でした。
そこで Speech という言葉の意味を説明するために、お坊さんが説法する様子を表す仏教用語の「演説」をスピーチにあてたといわれています。

この「演説」という言葉を現在の意味に定着させた人物が福澤諭吉でした。
『学問のすすめ』では「演説」を英語でスピーチということが説明されています。

他に自由(liberty)・討論(debate)・経済(economy)・動物園(zoo)なども福澤諭吉によって広まった言葉だといわれています。

ちなみに「愛」という言葉はもともとは仏教用語で「何かに執着する」という意味でした。
今のような愛おしむという意味ではありませんでした。

現在の意味で使われ始めたのは明治時代に入ってからだといわれています。
当時は「愛してる」などの直接的な表現は避けられており、あの文豪・夏目漱石は英語の教師をしていたときに「I Love You」を「月が綺麗ですね」と訳したとか訳していないとか。

日本語はカタカナという便利なものがあり、それで書き表すと何かの言葉になっちゃうところがあります。
しかし、そうではなく、ちゃんとみんながわかるように漢字をつけて1つの語に仕立てることはすごいことだと思っています。

あとがき

「人一倍」を不思議に思った時期がありましたが、とうの昔に忘れてしまいました。
今回の話でようやくわかりました。

昔は「×2」を「一倍」と表現していたのですね。
とても不思議です。

西洋文化の影響は計り知れません。
日本の良いところといえば良いところでしょうね。

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